『子どもの権利条約』で謳われている「子どもの最善の利益」を日本において実現するため、ハーグ条約の真実を伝える活動を行っています

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(越境する家族:上)子の養育「主張しやすく」 ハーグ条約加盟後の日本人妻

出典:平成25年6月6日 朝日新聞

(越境する家族:上)子の養育「主張しやすく」 ハーグ条約加盟後の日本人妻
=米・カリフォルニアからの報告=

 夫婦関係が破綻(はたん)して、一方の親が子どもを国外に連れ去った場合に、子どもは原則、元の居住国に戻す――。そう定めたハーグ条約に、年内にも加盟する見通しになった。条約はどんな影響をもたらすのか。米国・カリフォルニア州から報告する。

 「フライトリスク」

 日本人の女性と結婚した米国人の男性が、子どもの養育をめぐる裁判で口にする言葉だ。母親が子連れで日本に帰国し、居場所がわからなくなってしまうリスクを指す。

 ロサンゼルスで、日本人妻の代理人を務めることが多いロバート・コーエン弁護士は、長い間、この言葉に悩まされてきた。「離婚裁判で、夫側に『フライトリスク』を主張されてしまうと、日本人の母親が子どもの監護権を得るのは難しい」

 弁護士自身、この「リスク」を実際に体験している。

 1998年ごろ。日本人妻と米国人夫の離婚裁判で、夫から家庭内暴力(DV)を受けていた日本人妻の代理人になった。夫側は、まず「フライトリスク」を主張、妻は監護権を奪われた。さらに、妻が夫に反撃してひっかいた背中の傷を「夫への暴力」と認定され、妻が子どもと会う時は監視役がつくことに。安全だとみなされ監視が解かれると、妻は子連れで日本に帰り、行方がわからなくなった――。

   ■   ■

 米国から日本への子どもの「連れ去り」は、米国政府が把握しているだけで81件(昨年9月時点)。条約に加盟すると、監護権や親権を持つ親に断りなく子どもが国外に連れ去られた場合は、連れ去り先の国が子の居場所を捜し出し、元の国に戻さなければならない。

 日本で離婚した場合、親権は一方の親しか持てないが、米国の多くの州では、父母が監護権を共有するのが原則だ。どちらかが単独で監護権を持つ場合も、別居する親と定期的に会うケースが多い。カリフォルニア州では監護権の共有を前提に、子どもの利益を優先する取り組みを進めている。

 ロサンゼルス郡上級裁判所・家族法部門代表のスコット・ゴードン判事は、条約加盟でフライトリスクがなくなれば、日本人妻は監護権を争いやすくなるはずだと指摘する。「これまでは、離婚後たとえ1カ月間の里帰りでも、日本人妻の子連れ出国は認めづらかった。今後は夫婦同じ条件のもとに、子の利益最優先で判断できるようになる」

   ■   ■

 妻側に経済力がなくても、監護権は公平に争えるのか。

 ゴードン代表判事は「妻が無職の場合も、経済力が理由で不利になることはない」と説明する。監護権を決定する時は(1)主に子どもを世話してきたのは誰か(2)離婚後、世話をする時間があるか(3)虐待などがなかったか――などが考慮されるからだ。

 養育費は必ず取り決められ、経済力があるのに支払わなければ、逮捕されて留置されるなど厳しい制裁がある。裁判費用も「一方に資力がない場合は、裁判所が資力のある側に支払いを命じることができる」と言う。

 ただ、弁護士や通訳には多額の費用がかかるため、双方に経済力がない場合、裁判での解決は難しくなる。話し合いや調停で決着させなければならない。

 □無料で調停・子の気持ち学ぶ講座 整う支援制度

 カリフォルニア州では、離婚の際に子どもが親と断絶したり、気持ちが置き去りにされたりしないよう、様々な仕組みが用意されている。離婚する時は、夫婦で子どもの養育計画を作り、裁判所に提出しなければならない。子どもがそれぞれの親と過ごすスケジュールも細かく取り決めて盛り込む。合意できない場合は、裁判所の調停を無料で利用できる。調停で合意できない時は裁判で争う。

 調停に入る前に、夫婦は「子どもが第一プログラム」と題したインターネット上のオリエンテーションを受講し、子どもがどんな気持ちでいるかを学ぶ。離婚を経験した子どもが「親のけんかは自分のせいだと思った」などと心情を語る映像や、親の心理状態についての説明を見ながら、約1時間かけて小テストを受け、終えると修了証が発行される。

 調停には、心理の専門職である「メディエーター」が同席。虐待などの問題があれば、家庭を訪問して調査する。

 調停や裁判を経て合意できる場合も少なくないとコーエン弁護士は言う。「母親と日本で暮らし、夏休みに米国の父親に会いに行く。そんな和解に成功した例もいくつかある」。条約加盟後は、こうしたケースが増えると見る。

 (杉原里美)

 ◆キーワード

 <ハーグ条約と親権> 国際結婚の増加を背景に30年前に発効。89カ国が加盟する。外国人の夫と別れた日本人の妻が、子どもを日本に連れ帰るケースに対し、欧米から「連れ去り」との批判が強まって加盟を決めたが、妻へのDVから逃げた場合は、子を戻すべきでないとの声も根強い。日本人同士の夫婦でも、一方が子どもを国外へ連れ去ると、条約の対象になる。

 条約の背景には、言葉が通じない国への転校など環境の変化や、もう一人の親と会えなくなることが子どもの利益を損なうという考え方がある。

 欧米には、離婚後の監護権を両親に認めている国が多いが、日本は一方の親にしか親権を認めていない。「子どもを離婚した夫(妻)に会わせたくない」と考える人も多く、考え方の違いは大きい。

更新 2013-11-24 (日) 10:33:11
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